任天堂法務部ってなに?
ゲームメーカーとして真っ先に名前が上がり、知名度も一番であろう「任天堂」だが、その中の法務部も有名なのはご存知だろうか。
任天堂法務部は数ある裁判で負け知らずであり、無双状態であると言っても差し支えない実力を持っている。
自分から訴えた裁判はもちろん、訴えられた裁判にも勝利する実力を持っています。
そんな法務部の実績を今回はまとめて行きたいと思う。
- 『マリカー裁判』
- 『ティアリングサーガ裁判』
- 『ドンキーコング裁判』
- 『3DS裸眼立体視特許裁判』
- 『ユリ・ゲラー裁判』
- 『コロプラ裁判』
- 『テンゲン社裁判』
- 『Anascape裁判』
- 『マジコン裁判』
- 『フィリップス裁判』
『マリカー裁判』
2020年12月28日
任天堂は東京都にて小型カートのレンタル事業を展開する「MARIモビリティ開発」への訴訟に勝利した事が発表された。
この時点で、察しの良い方は、訴訟内容に検討が付くと思われる。
この会社は公道を走れる小型カート、通称「マリカー」のレンタル事業をしていました。
マリカーと聞くと、任天堂の看板キャラともいえるマリオ達がレースをするゲーム「マリオカート」が出てくるであろう。
このレンタル事業は東京都の秋葉原や渋谷に営業所があり、日本人はもちろん、外国人観光客に絶大な人気があった。
貸し出していたのは、カートだけではなく、マリオやルイージ等のコスプレ衣装の貸し出しも行っていた。
現在は「MARIモビリティ開発」という社名であるが、その前は「マリカー」と言うそのまんまの社名であったが、任天堂に目を付けられた辺りか、社名を変更。
これら一連の行為に任天堂が何もしないわけもなく、2016年に「マリカー」の商標取り消しを特許庁に申し立てました。
しかし、2017年に特許庁は任天堂の主張を認めず、申し立てを破棄。
これで終わるわけもなく、破棄された翌月に「不正競争違反」及び「著作権違反」で訴訟を起こし、翌年にはみごとに勝利し、相手会社には1000万円の損害賠償と、キャラクターコスチュームのレンタル禁止が言い渡されました。
それでも、著作権違反は認められませんでした。
これはあくまで私個人の仮説ですが、ここで著作権違反を認めてしまうと、コスプレという行為そのものも禁止してしまいかねないからではないかと思います。
その後、社名を「マリカー」から「MARIモビリティ開発」に変更し、営業を継続、だけではなく、この判決に控訴しました。
もちろん、任天堂も控訴。
これが、冒頭の12月28日の一件です。
結果としては、先程も記載した通り、任天堂が勝利し、損害賠償金額が5000万円に引き上げられました。
これで任天堂の完全勝利です。
この一件に対して、ネット上では「法務部最強」と沸き上がり、Twitterのトレンドに「#任天堂法務部」が入りました。
『ティアリングサーガ裁判』
2001年
エンターブレイン社が発売したビデオゲーム「ティアリングサーガ ユトナ英雄戦機」という作品が、任天堂が発売した「ファイアーエムブレム」と内容が非常に酷似しており、無断で制作されたため、不正競争防止法違反と著作権侵害でエンターブレインと開発元のティルナローグを訴訟した。
どれくらい酷似していたかと言うと、
・ゲーム内で複数の武器の名前と性能が同じ
・マップの移動方法
・パーティー編成の仕様
ここまで似ていたにも関わらず任天堂側の主張は認められませんでした。
理由としては、開発元であるティルナローグはファイアーエムブレムの生みの親である「加賀昭三」がファイアーエムブレムを制作したインテリジェントシステムズから独立し、立ち上げた会社であった。
そのため、ティアリングサーガもファイアーエムブレムも製作者は一緒になることが理由と考えられる。
しかし、良く調べてみると、裁判でかかった任天堂側の弁護士費用や、ティアリングサーガの売り上げの一部が任天堂に支払われることになり、和解しています。
これは、主張が退けられた程度で任天堂は諦めないことを悟って、早めに折り合いをつけたのではないでしょうか。
『ドンキーコング裁判』
1982年~
これは任天堂が行った裁判の中でも、かなり有名ではないだろうか。
任天堂のゲームタイトルの一つ「ドンキーコング」が映画「キングコング」のアイディアを盗んで作ったのではないか?と、ユニバーサル社から訴えられました。
任天堂はなかなか引き下がらず、それに痺れを切らしたのが、ユニバーサル社は、任天堂がドンキーコングのライセンスを供与していた6社を提訴し始めた。
それらの会社は任天堂に比べ、会社規模が小さく、短期戦で勝利しやすく、任天堂を足元から狙っていく作戦だと思われる。
その狙いは的中し、訴えられた会社は次々降伏していった。
しかし、法務部は新たに弁護士を起用し入念な調査を行い、過去(1975年)にユニバーサルはキングコングを最初に制作した「RKO社」に訴えられたことがあり、その時、キングコングの著作保護期限が切れていると主張証明して勝利した記録があり、そこから弁護士はキングコングが誰も権利を所有していないパブリックドメインであると気づき、それを武器に名誉棄損で逆提訴して勝利し、ユニバーサル社が任天堂に200万ドルを支払う結果に。
逆に、映画がゲームの内容をまねしたのではないかといった主張を裁判官に認めさせた、なんて逸話もあります。
余談なのですが、この裁判で任天堂側の弁護士の名前が「ジョン・カーヴィ」であり、あの「星のカービィ」の元になっているなんて話も宮本茂氏へのとあるインタビューの中で明らかになっています。
『3DS裸眼立体視特許裁判』
2011年
元ソニーの社員である富田氏が、裸眼立体視を開発したところ、任天堂が許可なく、3DSの機能として使用したと、訴訟を起こしました。
第一審では、訴訟内容が認められ、29億円の損害賠償の支払いが命じられましたが、この特許が元ソニー社員だけの物ではなく、特許の使用も一部分のみであり、主要部分ではないと、主張し逆転勝利。
『ユリ・ゲラー裁判』
任天堂の代表的なタイトルである「ポケットモンスターシリーズ」に登場する「ユンゲラー」という名前のポケモンが、あのスプーン曲げで有名な、超能力者「ユリ・ゲラー」本人が、85億円の損害賠償を求めました。
「ユンゲラー」はスプーン曲げやゲーム内図鑑の説明、悪役としての扱い、体の模様がナチスを示しているなどと訴えた。
しかし、「ユンゲラー」という名前は日本でしか使われておらず、英語版では「Kadabra」であり、日本で裁判を起こすならまだしも、英語圏で起こすのはおかしいのではないかと、勝利。
また噂程度ではあるが、ユンゲラーの様に超能力が実際に使えるのかどうかを法廷で証明させた、と言った話もある。
余談だが、裁判以降のポケモンカードシリーズではユンゲラーが絶版になっていることから、訴訟がまだ続いている説もある。
また、海外版のソフトには「ユンゲラー」という名前でユンゲラーを交換することは出来ず、ユンゲラーに「かわらずのいし」と言うポケットが進化しないようにするための道具を持たせて交換しても、強制的にフーディンに進化してしまう。
『コロプラ裁判』
2017年
コロプラ社が開発・配信しているスマホアプリゲーム「白猫プロジェクト」内で使用されている操作方法などが、任天堂が持つ6件の特許を侵害しているとして、損害賠償44億円と、アプリの配信停止を要求した。
これが任天堂初めての国内での特許訴訟になる。
まず問題になったのは「ぷにコン」と呼ばれる操作方法だ。
簡単に言えば、画面をスライドすることで、スライドした方向に操作キャラが移動する機能だ。
これはDSでタッチスクリーンを使用した操作と非常に酷似しており、例を挙げると、スーパーマリオ64DSで似たような操作が確認できる。
それ以外にも
・指やペンを離したタイミングで敵キャラに攻撃
・スリープモードから復帰するとき、確認画面を挟む
・相互フォローしているユーザーとしかゲームが出来ない制限
・キャラが物体の陰に隠れた時にシルエットを表示する
といったことも訴訟内容に含まれている。
これを聞くと、なにも白猫プロジェクトに限った話ではないように感じる。
しかし、これは噂だが、白猫プロジェクトは任天堂のコンテンツを真似したゲーム内のイベントが存在することが原因であり、とくにぷにコンに目を付けられたのも、コロプラがぷにコンの特許をカプコンとクロスライセンスを結んで利益を得ようとしていたから、とも言われている。
この一件は完全には決着がついていないものの、12回以上の裁判が繰り広げられているようです。
『テンゲン社裁判』
1986年~90年代前半に行われたアタリゲームズ社の子会社であるテンゲン社関連の裁判である。
この裁判では「Nintendo Entertainment System」通称NESと呼ばれる機械の一件と、テトリスの2つで裁判になった。
『NESの件』
NESは任天堂が世界各国に発売した、海外版のファミコンだと思っていただければ、差し支えないです。
そのNESのチップからコードを盗み、リバースエンジニアリング(構造分析)し、自社でNES用のソフトを開発し、販売した。
『テトリスの件』
家庭用ゲーム機でのテトリスの使用権について揉めた一件です。
80年代後半に、セガがメガドライブに、任天堂がゲームボーイで同時期にテトリスのソフト化を検討した。
セガはテトリスのライセンスをテンゲンから、テンゲンは親会社のアタリから、アタリはミラーソフトから、ミラーソフトはアンドロメダから、アンドロメダはELORGからと、何重にも橋渡し状態になっていた。
しかし、問題は何重にもなる橋渡しではなく、大元のELORGが渡したライセンスがIBMのパソコンでしか適応されていなかったことだった。
つまり、テンゲンは家庭用ゲーム機のテトリスを作る権利を持っていなかった。
何重にもなっているため、テンゲンはその事に気づいておらず、先に任天堂が気づき、ELORGとテトリスの販売権を直接契約。
これがテトリスの一件。
『Anascape裁判』
2006年
アメリカ、テキサス州にある「Anascape」という会社が、任天堂ゲームキューブ用のコントローラーと、その無線コントローラー、Wii用のコントローラーが自社の特許を侵害していると訴えた事例。
具体的には、振動機能付きのコントローラーが特許を侵害しているといった内容だ。
確かに、この機能に関する特許を2000年に出願していたのだが、その2年前の1998年にソニーが類似の特許を出願していた。
ソニーの特許とは2000年に発売されたプレイステーション2用のコントローラー「Dual Shock2」である。
Dual Shock2が発売されたのが2000年10月であり、Anascapeが特許を出願したのが、同年11月であるため、任天堂はそれを突いて無効であると主張し勝訴した。
『マジコン裁判』
2009年
これは任天堂単体の裁判ではないのだが、紹介しておこう。
マジコン輸入販売業者に対して、任天堂とソフトメーカー54社が提訴した事例だ。
54社の例を挙げると「カプコン」「スクエニ」「バンナム」「タイトー」「セガ」などがある。
これら54社が任天堂と協力し、マジコン輸入業者5社に対して提訴した。
マジコンとは、microSDを挿入できるDSカセットと同じ見た目の物で、ネット上からゲームソフトのデータをmicroSDにダウンロードすることで、購入せずにソフトが遊べてしまう代物だ。
これらを輸入販売する会社を不正競争防止法違反で訴えた。
ここで、著作権違反や特許侵害では訴えなかったのかというと、あくまでダウンロードするのは購入者で、業者は機器を販売しているだけだからだ。
提訴理由としては、マジコンの流通によってソフト売り上げが下がり、その元凶である輸入業者が不正競争に当たるといったものだ。
裁判は7年間にも及び、2015年に勝利し、損害賠償9526万円が認められた。
『フィリップス裁判』
2014年
PHILIPSが任天堂に対して、WiiとWiiUに使用されている動作感知システムが自社の特許を侵害しているとして訴えられた。
動作感知システムとは、簡単に言えば、人の手や体の動きを機械が認識し、ゲーム内に反映する為の技術のことである。
この時もソニーの同じような特許を主張し、退けようとしたが、効果はいま一つで、結果的にはお互いにお互いの特許を利用できるようにする(クロスライセンス)ことで和解に終わったが、任天堂はフィリップスに和解金を支払うことになった。